一世紀以上の歴史を持つ非鉄金属製錬。その安定操業は、長年現場を支えてきた熟練技術者の知識・経験に依存している部分も少なくありません。八戸製錬株式会社様の事例では、各所に分散する膨大な操業データを一元化し、最新の情報を数時間ごとに反映できるデータ基盤を構築。三井金属ユアソフトと共に、属人化からの脱却と次世代への技術継承、そして未来を見据えたDX推進への第一歩を力強く踏み出しました。
酒井 守様
八戸製錬株式会社 製錬課 技術係。2019年に三井金属鉱業株式会社(現・三井金属株式会社)に入社後、彦島製錬所を経て2022年より現職。現場の技術職として操業改善に取り組みながら、本プロジェクトではユーザー側の視点からデータ基盤の活用推進と現場への導入を主導。現在は社内のDX推進チームにも所属。
熟練技術者の技術・経験を、
未来へつなぐために。
酒井様
もともと私は技術職として、日々の操業におけるKPIの管理と、それに基づく改善活動を主な業務としていました。しかし当時は、操業に関わるデータが様々な場所に分散しており、KPIを一つ算出するにも、まず大量のExcelファイルからデータを集めて手作業で計算する必要があったのです。この作業が非常に煩雑で、本来時間をかけるべき打ち手の考案と実行に注力できない、というもどかしさを常に感じていました。また、計算方法や分析のノウハウが個人の技量に依存しており、業務が属人化しているという課題も。特に、経験の浅い若手や新人は、ベテランが頭の中で行っているような判断のプロセスを学ぶ機会が少なく、技術の継承という面でも大きな課題がありました。「とにかくデータを1ヶ所に集約したい」という思いが強かったです。
佐藤
そういった課題感を感じられていた中で、この度のプロジェクトは、三井金属グループ全体でDXを推進するという大きな方針のもと、パイロットプラントとして八戸製錬様が選定されたことからスタート。私たち三井金属ユアソフトは、将来的な「システム活用の自走」を見据えた技術支援という立場で参画することになりました。グループ会社である我々が関わる意義は、単にシステムを構築するだけでなく、それを“育てていく”こと。だからこそ、1年後、さらには10年後を見据え、八戸製錬様自身がデータを活用して自走できる状態を作ることこそが、我々のミッションだと捉えていました。
現場への浸透という最も高い壁を、二人三脚で乗り越える。
佐藤
プロジェクトに伴走させていただくにあたって壁となったのは、技術的な面で、八戸製錬様が扱うデータの量が、我々の当初の想定をはるかに超えていた点です。標準的な仕組みだけでは対応しきれない部分もあり、性能とコストのバランスを取りながら最適な構成を模索する試行錯誤が続きました。しかし、それ以上に大きな壁だと感じていたのは、「作ったシステムを、いかに現場で使っていただくか」という点でした。どんなに優れたシステムも、現場で活用されなければ意味がありません。ここは、まさしく酒井さんの力が不可欠でした。私たちは開発の立場から、定期的な振り返りの場を設けたり、現場の声をダイレクトに聞く機会を作ったりと、密なコミュニケーションを心掛けていました。
酒井様
データ基盤の構築そのものについては、三井金属ユアソフトさんが力強くリードしてくださったので、私のミッションは、まさにそのデータを、「現場にどう使ってもらうか」を工夫することでした。特に心掛けていたのは、「これを使うと、これくらい既存の作業が楽になりますよ」という具体的なメリットをわかりやすく伝えることです。例えば、「今まで半日かかっていたExcelでの集計作業が、この画面を開けば一瞬で終わります」といったように、削減できる時間や手間を明確に示す。まずは新しいシステムに触れてもらい、その中で出てきた「もっとこうしたい」という要望を、今度は佐藤さんたちにフィードバックして改善を重ねていく。この二人三脚のサイクルがあったからこそ、現場への導入もスムーズに進んだのだと思っています。
佐藤 直輝
株式会社三井金属ユアソフト ビジネスイノベーション部。2019年に入社後、三井金属グループ全体のIT戦略に携わる。本プロジェクトではデータエンジニアの立場で、八戸製錬様のデータ基盤構築から追加開発、保守までを一貫して担当。グループ全体のDX推進とAI活用も見据える。
DXがもたらした
「見る」ことから始まる
現場改革。
酒井様
最も目に見える変化は、事務所や現場に大型のディスプレイが設置され、これまでExcelでしか見られなかったKPIがリアルタイムで表示されるようになったことです。これにより、誰もが同じデータを共有し、「この数値が動いているから、明日はこうしよう」といったように、データに基づいた議論が自然に生まれる文化が醸成されました。今でも現場の皆さんから「本当に楽になった」という声を聞けるのが、一番の喜びですね。また、技術継承の面でも大きな効果を感じています。これまでベテランの頭の中にしかなかった知見や判断基準が、データや可視化されたグラフという“共有できる知識”に変わりました。これにより、若手もデータを通じて過去の事例を学べるようになり、今後は管理職が異動になった際の引き継ぎもスムーズになると考えています。
佐藤
私たちの立場から見ても良かったと感じるのは、やはり「Excelからの脱却」という成功事例を一つ作れたことです。これは八戸製錬様に限らず、多くの製造業が抱える共通の課題と言えます。今回のプロジェクトで、散在していたデータを集約し、Excelを介さずに必要な情報を誰もが見られる形を構築できた。この実績は、今後三井金属グループ内の他の拠点へ展開していく上での大きな一歩にもなったと感じています。
AI活用と
グループ展開で、
ものづくりの新たな価値を
創造していく。
酒井様
足元の業務効率化は大きく進みましたが、もちろん、これで全て終わりではありません。私たちの製錬所には、過去の膨大な操業データという“宝の山”が眠っています。これらのデータとAIを活用し、今後はより高度な異常検知に取り組んでいきたいと考えています。単に過去を振り返るだけでなく、過去の傾向からこの先どのようなことが起きるかを予測し、先手を打っていく。この挑戦は、三井金属グループの関係部門と連携するプロジェクトとして、すでに始動しています。
佐藤
私たち三井金属ユアソフトとしては、まず今回の成功事例を、三井金属グループ内の他の製造拠点へ横展開していくことが使命です。そして、酒井さんがおっしゃったように、AI活用の土壌は一つ整いました。今後は「AIで活用すること」を前提としたデータの蓄積・設計を提案し、グループ全体の競争力強化に貢献していきたいです。データ基盤だけでなく、セキュリティやインフラも含めたIT全般の課題に対して、現場に寄り添い、共に課題を解決していく。そんな頼れるパートナーであり続けたいですね。