奥飛騨だより

荘川(しょうかわ)の秋祭り

2012年10月号

 飛騨地方はすっかり秋めいてまいりまして朝晩は肌寒い日が続いております。
田んぼでは稲刈りが行われ、各地で収穫を感謝する秋祭りの獅子舞いや闘鶏楽(とうけいらく※)の鐘の音が聞こえてくる季節となりました。
今回の奥飛騨だよりは、秋祭りの中でも少しめずらしい高山市荘川(しょうかわ)町のお祭りをご紹介いたします。

蕎麦ひき用の水車小屋

蕎麦ひき用の水車小屋

 荘川町は岐阜県北西部に位置し、本社のある神岡からは車で1時間半くらいの山間の自然豊かな山村です。 荘川町は「そばの里」としても有名で、祭りがおこなわれる夜まで少し時間がありましたので、まずは名物のそばをいただくことにしました。

 「荘川そば」は標高1200メートルの高原地で栽培されています。 朝晩の温度差が大きく、そばの成長には適しており、質のよいそばが収穫できます。 地内のそば屋さんに入りそばができるまでの間、まずは荘川の郷土料理である「どぶ汁」をいただきました。

左下が郷土料理「どぶ汁」

左下が郷土料理「どぶ汁」

 「どぶ汁」とは地元の豆腐店でとれた豆乳にだし汁と塩で味付けされ、見た目はどぶろくのように真っ白ですが醤油風味の、飲むととても心と体が温まる料理でした。 寒さの厳しい飛騨の地ではかかせない料理だったのだと思いました。 しばらく待つと「そば」が運ばれてきて早速いただきました。 この時期は新そばには少し早い時期でしたが、食べてみるとそばの味がとても濃厚で香りも高く、こんなそばは食べたことがないくらい美味しいそばでした。 もうしばらくすると新そばが味わえるとのことでしたので、また訪れて食べたいと思いました。

闘鶏楽の行列

闘鶏楽の行列

 外も暗くなり祭りの時間が近づいてきたので、祭りがおこなわれる「荘川神社」に向かいました。 荘川地区の祭りの特徴は、神様に芝居を奉納する「奉納芝居」が行われることです。 この「奉納芝居」の歴史は長く、約300年前から地域の若者が歌舞伎や時代劇などを神社の境内で披露し神様にお供えしてきたとされています。 過去には町内にある各神社で行われてきたとのことですが、現在では人口減少に伴い若者が少なくなり、町内でも3か所の神社で行われるだけとなっているそうですが、それでも現在まで続いていることを思うと、大変なことだと思いました。

神社境内に設営された舞台

神社境内に設営された舞台

 神社に入ると境内の裏側に立派な舞台が用意されていました。天幕が貼られ、座布団が並んでおり音響設備等も設置され、ここが山間の神社とは思えないくらいしっかりした舞台で驚くとともに、どんなお芝居がみられるのかわくわくしてきました。

 定刻となり観客席は人でいっぱいになり、まずは獅子舞いが披露されました。 ここ荘川の獅子舞いは他所とは一味ちがい、11頭の獅子が一緒に舞う「連獅子」と呼ばれる獅子舞いです。 大きな舞台に11頭の獅子が隙間なく並び、同じ仕草で一緒に舞う姿は、迫力がありながらもどこか可愛らしく、時間が経つのも忘れ見入ってしまいました。 10月14日(日)にはなんと30頭の獅子が舞うお祭りが行われるということですので、こちらも是非見に行きたいと思いました。

飛騨荘川 日本一の連獅子

飛騨荘川 日本一の連獅子

はじまり、はじまり~

はじまり、はじまり~

 獅子舞が終わるといよいよお芝居の始まりです。 まずは開演に先立ち配役のアナウンスが流れます。 配役名が呼び出されるたびに観客から掛け声がかかり会場の方も盛り上がってきました。 キャストは地元の人たちばかりで、学校の先生や派出所の駐在員、診療所の先生も出演されるようです。 また脚本・演出・音響等も地元の方がされ、手作りながらも熱の入れ方が伝わってきます。

 「お芝居のあらすじですが、江戸時代が舞台の時代劇で、町で抗争を繰り返している一派の親分が争いの最中に雷に打たれ、現代にタイムスリップするというもので、現代に現れた親分が後の子孫に出会い、時の文明に驚き、押し入った強盗を追い払うなどしながら友情を育み、江戸時代に帰っていくというものです。

茶屋のシーン 先生頑張って!

茶屋のシーン 先生頑張って!

 舞台の幕が開き、時代劇の衣装を着た役者が登場してきました。 演者はそば屋のご主人なのか「蕎麦屋の息子!」という掛け声や「お父さん~」という掛け声が飛び、会場は一瞬にして笑いに包まれました。 次に学校の先生が登場すると、児童・生徒からは「先生頑張って!」という声援が飛び交います。 役者もアドリブで台本にない芝居をしたり、カツラがずれたり音が出ない等のハプニングも楽しみながらお芝居をしており、それに対しての観客からの暖かい掛け声が飛び交い、会場全体でお芝居を楽しんでいる様子でした。

白熱の殺陣 斬ってまえ~

白熱の殺陣 斬ってまえ~

 一派の抗争のシーンでは殺陣が行われ、映画やテレビで見るような派手さは無いものの、生で見る殺陣に会場は大盛り上がりで、会場からは「斬ってまえ~!」の掛け声がかかり、こちらまでとても熱くなりました。 このようなお芝居はさぞや練習に時間がかかったのだろうと思いましたが、2週間前から練習し全員合同で練習したのは2日だけということでその芸達者ぶりに驚きました。 お芝居は終始笑いに包まれていましたが、終盤になると現代の文明に頼った生活を考えさせられるシーンや、親分の帰りを待ちわびる女心が表現されているシーンもあり、見終わった後はいいお芝居だったなと思いました。

子供たちによる日舞

子供たちによる日舞

桃太郎が福袋を投げる!

桃太郎が福袋を投げる!

  プロの役者が演じるお芝居も良いですが、素人が行う手作りのお芝居は次に起きるハプニングや観客の掛け声が楽しみで、会場一体となって盛り上がりとても楽しかったです。 今回は上記のお芝居のみのご紹介でしたが、他にも子供たち向けに現代風にアレンジされた「桃太郎」のお芝居があったり、地元の子供たちによる日舞があったり、特大の福袋を投げて観客にプレゼントするイベントが行われたりと盛りだくさんでした。 今回の演目のお芝居は1年に1度限りの舞台ということなので、違った演目を見に来年もまた訪れたいと思いました。
これから飛騨地方はますます秋深くなり、各地でさまざまなお祭りが催されます。秋の味覚も出回りますので、秋の行楽にぜひ飛騨にお越しください。

※闘鶏楽・・・鳥毛のついた花笠をかぶり、白地に色鮮やかな鳳凰の意匠が施された衣装を纏い、鉦(かね)と太鼓を打ちながら行列で巡行する、古くより伝わる飛騨独自の神事です。

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