奥飛騨だより

飛騨古川 三寺まいり (2010.2月号)

2010年2月号

 1月15日、小正月を迎えた飛騨市古川町では、雪が降りしきる中「三寺(さんてら)まいり」が催されました。この「三寺まいり」は、300年以上もの昔から今に伝わる伝統行事です。今月はその様子をご紹介します。

 「三寺まいり」は、浄土真宗の宗祖とされる親鸞聖人のご恩を偲ぶために始められたと言われており、飛騨市古川町内にある、円光寺・真宗寺・本光寺の三つのお寺を一夜の内に詣でる催しです。写真はそんな三寺のひとつである真宗寺の前の様子です。左下には人の背丈以上もある巨大な雪像のろうそくが写っています。この巨大雪像ろうそくは「三寺まいり」の風物詩で、古川町内の至るところで見ることができます。背伸びして覗くとちゃんと火が灯っているのがわかります。

 春から秋の季節にかけては約1000匹の鯉が放流され、見る者の目を楽しませてくれる瀬戸川も、冬の夜はひっそり閑としています。しかしこの日ばかりは特別です。ご覧の通り、川縁には灯籠が整然と並べられます。ゆらゆらゆれる不安定な灯りは、照明としては心許ないものですが、街路灯にはない温かみを感じさせてくれます。町中に降り積もった雪や、古川町独特の白壁土蔵の白い壁も、灯籠の灯りを助長するのに一役買ってくれています。

 こちらの写真も瀬戸川沿いの様子で「千本ろうそく」と呼ばれるものです。恋愛成就を願うときには白いろうそくを立てて祈りを捧げ、願いが叶った翌年には赤いろうそくを立て、そのお礼参りをするのだそうです。かつて野麦峠を越えて信州に出稼ぎに行った若い娘が「三寺まいり」に出会いを求めたのが起源とも言われていますが、案外瀬戸川の「鯉」と「恋」を掛けたのではないかとも思います。「三寺まいり」を紹介する際にはこの風景がよく持ち出されます。

 真冬の町歩きを満喫する際は、お供に暖かい飲食物を、というのが人情だと思います。三寺のひとつ、円光寺近くにはそんな要望に応えてくれる露店が数多く見られました。飛騨地方らしく地元特産品の飛騨牛等を使った料理が目白押しで、どれにしようか迷ってしまうほどです。中でも特にお勧めしたいのが甘酒。冷たく引き締まった外気中を甘い香りが伝ってきますので、つい財布の紐も緩くなってしまいます。甘酒片手に町を散策するのも一興ではないでしょうか。

 冬の飛騨地方は、厳しい寒さと雪深さとで、訪れる人はあまり多くはありません。だからなのか、冬の催しは観光客よりも、地元の方が楽しむ為に行っているようにも見受けられます。飛騨独自の文化を本当に体験されたいのであれば、実は冬が一番なのかも、そんな気がします。

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