奥飛騨だより

飛騨の年取り魚「汐ぶり」(2013.1月号)

2013年1月号

新年、明けましておめでとうございます。奥飛騨だよりも6年目を迎えました。 今年も奥飛騨から様々な四季の様子を皆様にお届けしたいと思います。

新年最初の奥飛騨だよりは飛騨の年取りには欠かせない「汐ぶり」をご紹介いたします。 「汐ぶり」は飛騨の人々にとっては特別な食べ物です。その歴史と加工の様子、食べ方をお届けしたいと思います。

富山の最高級ぶり

富山の最高級ぶり

ぶりは大きくなると名前を変えていく出世魚です。そのため縁起物として特に西日本を中心に年取り魚として食されています。 特に富山湾の氷見で獲れるぶりは最高級のぶりとして知られています。今でこそ飛騨から富山までは車で1時間ちょっとの距離ですが、 その昔は牛や馬が1頭やっと通れるという狭い山道や、橋がなく狭い谷をロープで結び、籠に人や荷物をぶら下げて運んだというようなとても険しい道でした。 そのため、富山湾で水揚げされてから飛騨まで届くのには3日程かかったので、ぶりが腐らないように塩をすり込み、歩荷(ぼっか)や牛の背にのってはるばる飛騨まで運ばれてきました。

海が遠い飛騨では海の魚はとても貴重であり、特にこの年取りのぶりは年に一度の最高のご馳走と言えたでしょう。 流通が発達した今でも飛騨ではぶりは特別な食べ物で冬のソウルフードともいえます。この塩漬けされたぶりを飛騨では「汐ぶり」と呼び、更には信州各地へ年取りの魚として運ばれました。 信州に運ばれる間も更に塩がなじんで独特の旨味が加わり、信州では「飛騨ぶり」と呼ばれ高値で取り引きがされたようです。 このように富山から飛騨を経て信州に至るルートは「飛騨ぶり街道」と呼ばれ現在に伝わっています。

より大きな地図で飛騨鰤街道を表示

次は加工の様子をご紹介いたします。実は私の父は飛騨で40年以上にわたって汐ぶりを作っている職人です。今回の奥飛騨便りを機会にその加工の様子を取材させてもらいました。

陸揚げされたぶり

陸揚げされたぶり

まずはぶりの選定からです。昔は飛騨に一番近い富山湾のぶりが定番でしたが、今では流通や冷蔵技術が発達しているので、その年一番脂がのった品質のよいぶりを日本中から探して仕入れます。 飛騨の人はぶりにはひときわこだわりがあるため、素材選びから気が抜けません。

陸揚げされたぶり

陸揚げされたぶり

仕入れたぶりは3枚におろして、血ぬきをして身を開き、代々伝承されてきた秘伝の塩をすり込んでいきます。 塩のブレンドやすり込み加減は、その日の天候・気温・湿度に合せて微妙に調整しながらすり込んでいくそうです。 こればかりは長年の経験と勘が頼りのため熟練した腕が必要です。 ぶりに浸透する塩の加減を手先で感じることで明日の天気もだいたい当てることができると父は言っていました。

塩をすり込みます

塩をすり込みます

汐づけしたぶりは専用の桶に入れ1週間から2週間の間熟成させます。この期間も気が抜けません。 毎日、塩の浸透具合を確認しながらちょうどよい塩加減となったタイミングを逃さないように引き揚げます。 そして店頭にぶりが並べられます。このような気の抜けない作業を、毎年こだわりを持って父が行ってきた事を私は今まで知りませんでした。 この技術と伝統の味を守り、今後も長く汐ぶりを作ってもらいたいと思いました。

ブリの塩焼き

ブリの塩焼き

汐ぶりの食べ方ですが、定番はそのまま焼いてたべます。塩加減がちょうどよく、脂がのったぶりは旨味が増しとてもおいしいです。 そこに大根おろしを載せて食べるのもまた格別です。そして毎年、今年も家族で新年を迎えられることに感謝をしつつ汐ぶりを頂きます。

ブリ汁

ブリ汁

その他に我が家では汐ぶりを汁に入れて食べます。ぶり汁と呼んでいますが、焼いたぶりとかまぼこ・糸昆布・大根などを入れて、醤油で味付けした汁です。 正月には好みで餅をいれてお雑煮として食べたりもします。脂がのった塩焼きのぶりがよいダシとなりこれもまたおいしいです。

皆様正月はいかがお過ごしだったでしょうか?地域によっていろいろな年取り料理があると思います。 今では飛騨の汐ぶりは全国各地に発送されておりますので、もし機会がありましたら是非味わっていただければと思います。それでは本年もどうぞよろしくお願いいたします。

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