奥飛騨だより

飛騨高山の酒蔵めぐり

2019年2月号

 今年は暖冬と言われながらも、飛騨においては年明けから例年通りの寒さに見舞われております。 そんな寒い時期に最盛期を迎えているのが酒造りです。 飛騨地域は山に囲まれているため気温が低くきれいな水が豊富なので、昔から酒造りがさかんな土地です。 最盛期のこの時期、飛騨高山にある6軒の造り酒屋が1週間交代で酒蔵を公開し、 普段見ることができない酒造りの現場を案内してもらえる「酒蔵めぐり」が開催されております。 今回はそんな「酒蔵めぐり」の様子をお届けいたします。

酒蔵公開中

酒蔵公開中

 「酒蔵めぐり」は今年で45回を迎える歴史あるイベントです。 見学は無料で、見学後に試飲もあることから、平日にも関わらず多くの観光客が訪れていました。 この日の気温は氷点下2度。酒造所の古い蔵の雰囲気と漂うお酒の香りからこの場が神聖な空間のように思え、 気温以上に凛とした寒さを感じました。

見学を待つ人たち

見学を待つ人たち

180年経過した立派な梁

180年経過した立派な梁

 今回、見学したのは、高山市で天保10年(1839年)に創業された「川尻酒造場」です。 180年もの歴史ある酒造場で、昔ながらの手作りにこだわった酒造りをしていることが有名で、 私も以前から見学を楽しみにしていました

創業180年 酒造場

創業180年 酒造場

 酒造りの工程はすべて冬の寒い時期に蔵の中で行われます。 その理由は、冬の時期は空気中の雑菌が少なく、温度管理が大変な酒造りは、壁が厚い蔵の中だと室温が5度前後で安定するからだそうです。 土蔵が昔から食料等の保管庫として利用されてきたことに納得です。

蔵の中で酒は造られる

蔵の中で酒は造られる

 酒造りの最初の工程は精米です。 玄米を精米するのですが、地元の酒造好適米である「ひだほまれ」という銘柄のみを使用し、 65%~70%を削って酒造りに使用します。この削った割合により、 「大吟醸」「特別純米酒」といった名称が付けられるそうです。

 精米を終えると次はその米を洗ったり蒸したりする工程です。 それがこの「窯場(かまば)」と呼ばれる場所で行われます。 まず、前日にお米を洗い、水に浸して準備します。 翌日は、早朝から窯に「甑(こしき)」をのせ、その中にお米を入れて蒸気で蒸しあげます。 ここ飛騨高山にある6軒の酒蔵では朝からお米を蒸すため、酒蔵の煙突から蒸気があがっているのが、 今の時期しか見られない冬の風物詩となっています。

米を蒸すための巨大な窯

米を蒸すための巨大な窯

 蒸しあがったお米は、「路地放冷」というお米の質を損なわないように地面に広げられ、飛騨の早朝の冷気で自然の温度まで冷まします。 また一部の米は麹をつくる室温30度の部屋に移動し、日中夜かけて米麹を作ります。 米麹は蒸した米を広げて、上から米麹をふりかけ、手でまぜて麹菌を繁殖させていきます。 麹菌は肌に良いため、作業する人は皆、肌がきれいになっていくそうです。

ここでお米を冷まします

ここでお米を冷まします

 次の工程は「酒母(しゅぼ)」作りです。 大きなタンクに水と蒸米、蒸米から作った米麹と、発酵の元となる培養した酵母を入れます。 そうすると、日数が経過するとともに発酵が進んでいき、お米がアルコールに変化していきます。

酒母(しゅぼ)作りのタンク

酒母(しゅぼ)作りのタンク

タンクの中 発酵する様子

タンクの中 発酵する様子

 その時に二酸化炭素が泡となって発生し、発酵が進むとタンクの上まで泡でいっぱいになります。 その泡をかき消しながら、「櫂棒(かいぼう)」と呼ばれる専用の道具で、足場の上に立ってタンクの中を毎日混ぜます。 中の温度を見ながら約25日間タンクの中で発酵させ、出来上がるのが白くてどろっとした「もろみ」と呼ばれる液体です。

 次の工程はこの「もろみ」を絞る「上槽(じょうそう)」という作業です。 「もろみ」をホースで吸い出し、酒袋に入れ、木枠の中に詰めていきます。 この木枠を「槽(ふね)」と呼ばれる搾り機に乗せ、その上から圧力をかけます。 2日かけて袋の自然の重さと油圧でゆっくり搾ると、白くてお米のとぎ汁のような濁ったお酒(原酒)が出てきます。 袋に残った粕は酒粕となります。槽(ふね)使って絞るのは昔ながらの製法で、時間と手間がかかるため、 高山市内ではここ「川尻酒造場」1軒だけだそうです。他の酒造場では圧搾機を使用して一気に絞っており、 滴り落ちた原酒は白く濁らず、黄色味がかった透明な原酒が出てきます。

酒袋を入れる木枠

酒袋を入れる木枠

油圧をかけて絞る

油圧をかけて絞る

 その後、滴り落ちた原酒をタンクに移して1週間ほどおくと沈殿物がたまります。 この沈殿物を「滓(おり)」といい、おり酒として販売されます。 このおり酒はこうした昔ながらの製法でしか生まれない貴重なお酒と言えます。 普段は透明の日本酒しか飲まないので、今度はこの貴重な「おり酒」も楽しんでみたいと思いました。

おり酒 販売中

おり酒 販売中

 タンクで分離された透明な原酒は数年間寝かせて熟成させます。 熟成期間を終える際には、フィルターにかけてろ過し、 火にかけて熱を加えることで酵母の働きを止めて、完成となります。

熟成古酒 ひだ正宗

熟成古酒 ひだ正宗

 見学の最後はお待ちかねの試飲です。 今回試飲させていただくのは、2011年に仕込みをして、8年間熟成させた「ひだ正宗」というお酒です。 一般的なお酒は水でアルコール度数を調整して飲みやすいお酒にするのですが、 このお酒は、原酒を熟成させたお酒ということもあり、かなり辛口のお酒を想像して試飲しました。 飲んでみると確かに辛口なのですが、熟成されている分だけ、まろやかで落ち着いた味になっており、飲みごたえのあるお酒でした。 飲みやすいお酒も好きですが、お酒の味をじっくり味わいながらちびりちびりと飲みたいお酒ですので、 私の新たなお酒のレパートリーに加えたいと思います。

 「酒蔵めぐり」は3月2日まで、公開する酒蔵を変えて開催されています。 酒蔵毎にお酒の味も違うため毎週楽しめると思います。皆様も是非、飛騨高山のお酒を味わいにいらしてください。

飛騨の酒は絶品です

飛騨の酒は絶品です

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