奥飛騨だより

夏の日本海

2019年8月号

 梅雨が明けて、緑が日増しに濃くなっていく夏がやってまいりました。
 今年の梅雨も昨年と同じように、雨が降らない日が続くかと思えば、雨が降り出すと豪雨となることが多く天候の不安定な日が多かったように感じます。 暑い日があったかと思えば涼しい日があり体調を崩しやすい日が続いていますが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。
 今回の奥飛騨便りは、富山県から新潟県までの海岸線に沿ってご案内いたします。
 最初の目的地は、富山県下新川郡朝日町にあります、朝日ヒスイ海岸を目指します。 神岡町から41号線を北上し、富山市内を抜けて8号線に乗り、新潟方面へ向かって走行します。 神岡町から8号線の合流点まで55㎞位ありまして、富山市街地を通過するときは交通量が多く市街地走行を強いられますが、 8号線に入ると渋滞ポイントもそれほどなく、快適に走行できます。 8号線を新潟方面に進んで、50kmほど走ると、ヒスイ海岸の案内が見えてきます。地図上では、宮崎・境海岸(ヒスイ海岸)と表記されています。

ヒスイ海岸案内標識

ヒスイ海岸案内標識

ヒスイ海岸紹介表示

ヒスイ海岸紹介表示

 私はすぐに漢字で書けない翡翠(ヒスイ)は、高級な石、程度の知識しかありませんでした。 太古の昔から装飾に使われており、古墳などから出土しています。 日本は小さな国土からは考えられないほどの鉱物の宝庫ということで、このヒスイも世界で算出される所は限られているそうです。 ヒスイには硬玉と呼ばれるものと軟玉と呼ばれるものがあり、化学組成の違いから硬さが異なり、日本ではヒスイといえば硬玉の事を指すそうです。 この硬玉は日本をはじめわずかな国でしか産出しないそうです。
 この朝日ヒスイ海岸は、富山県と新潟県の県境にあり、ここから新潟県の親不知(おやしらず)海岸までは、 ヒスイの原石が拾える海岸として鉱物マニアの間では有名だそうです。 実際に私が訪れた時も、ほとんどの方が海水浴目的のようでしたが、一人だけ重装備で黙々と石を探す「ヒスイハンター」がいらっしゃいました。 この海岸は、大変珍しい「砂浜」がほとんど無い海岸です。 波で洗われた丸い石がほとんどで、歩くときには浮石の上に足を置く事になるので足元に注意が必要です。 私は鉱物について知識がないので、そこら中に転がっているきれいな石の種類判別はできませんでした。 それでも海岸を1時間ばかり彷徨ってみましたが、やはり薄緑色をしたきれいな石は全てヒスイに見えてしまいました。 歩き疲れて立ち止まった時に、「ロックバランシング」という自然石を芸術的に積み上げる遊びを急に思い出して挑戦してみましたが、 かなりの集中力が必要で、5分位挑戦したところで何段も積めるほど甘くない事を悟りました。次ページにヒスイ海岸の様子を写真でご案内します。

朝日ヒスイ海岸遠景

朝日ヒスイ海岸遠景

海岸の石その1

海岸の石その1

海岸の石その2

海岸の石その2

ヒスイのようでヒスイでない

ヒスイのようでヒスイでない

 なぜこの一帯の海岸にヒスイが打ち上げられるのか、メカニズムは正確にはわかっていないそうです。 近くにある川の上流にヒスイの層があり、そこから下流へ流れて海岸へ打ち上げられる、といえば簡単ですが、 河口付近の海底の状況、海流や波の影響を考えれば、本当に微妙なバランスの上に成り立った奇跡的な海岸と言えるのかもしれません。 この海岸の次に立ち寄った「親不知ピアパーク」という親不知海岸にある道の駅で販売されていたヒスイ原石は、 上記右下写真の長径20cm程度の大きさの原石が3万円の販売価格でした。 冷静に考えますと、原石を購入しても自分では加工が出来そうにありません。 観光客はお店に立ち寄りはしますが、購入している方はいなさそうでした。 海岸を訪れた日は、台風5号が接近しているにもかかわらず、波風は穏やかでしたが、気温、湿度ともに高くてとても暑く感じました。 1時間ほどで暑さに耐えかねて、車に戻ってエアコンを全開にして移動に移りました。 4kmほど行くと新潟県との県境です。県境の地名が「境」、県境を流れる川の名前は「境川」、その川にかかる橋の名前は「さかいばし」です。 もうこれでもかというほど県の境目であることがわかる名前です。橋を渡ると新潟県糸魚川市です。 糸魚川といえば、東西日本の境目「糸魚川静岡構造線」で有名です。 フォッサマグナと混同されることが多いようですが、糸魚川静岡構造線(略称:糸静線)はフォッサマグナの西側の「線」を指しており、 フォッサマグナは糸静線から東に大きく広がる「面」を言うそうです。 ちなみにフォッサマグナの東側の線は、柏崎市から千葉へ向かっている「柏崎千葉構造線」です。(フォッサマグナについては諸説あり) 日本アルプスの構造線の延長がここまで来ていて、この少し先にある「親不知(おやしらず)」は、 山から海岸に向かって切れたった崖がある昔から交通の難所で有名です。

新潟県糸魚川市標識

新潟県糸魚川市標識

振り返ると富山県朝日町

振り返ると富山県朝日町

境橋と境川

境橋と境川

国土を守る

国土を守る

 8号線は、糸魚川市に入ったところから、ロックシェッド(覆道)が多くなります。 飛騨でも頻繁に目にするロックシェッドやスノーシェッドではありますが、海岸線を走る国道を守るシェッドは左側から光がたくさん入るので暗くないのですが、 うねうねと曲がっていますので速度に注意しながら走行する必要があります。途中の駐車スペースにある看板に目が留まりました。 自衛隊のポスターで「国土を守る」という表現はよく見ますが、道路工事関連の看板で「国土を守る」という表現は見たことがありません。 しかし、この道路の立地条件と現地を見れば、決してオーバーな表現ではないと実感しました。 工事関係者の方々に感謝しながら、8号線を再び新潟市方向へ進みます。途中、前述で少し触れました「親不知」のを紹介している駐車場がありました。

天険 親不知

天険 親不知

昔の道である海岸線

昔の道である海岸線

砥の如く矢の如く

砥の如く矢の如く

国道8号線と北陸自動車道

国道8号線と北陸自動車道

明治に作られた道

明治に作られた道

現8号線天嶮トンネル

現8号線天嶮トンネル

 ここは明治16年までは海岸線を走って通り抜ける、まさに親不知・子不知(おやしらず・こしらず)の命がけの道でした。 明治16年に崖を削って道が作られたので、海岸線を命がけで通る事はなくなったそうですが、 防災対策の面から昭和41年に国道8号線天嶮トンネルが開通したことで、さらに安全に通行することができるようになりました。 実際に目にした海岸線の遠景は「昔の道です」と言われても全く想像することができない、どうやって通り抜けたのかわからない波打ち際でした。 明治16年に開通した旧道は、今は歩行者専用の遊歩道となっています。 途中の崖の面に「砥如矢如」(とのごとくやのごとく)という文字が刻まれている場所がありまして、 この文字は、道が完成した時に道路を作った責任者が「まるで砥石のように平坦で、矢のようにまっすぐ通れる道」という感激を現したそうです。 上の左下の写真は、現国道8号線から見える旧道の遠景です。写真中央にある屋根は、この道の歴史を紹介する建物の屋根で、写真の右下はすぐそこが海です。 長さ1㎞とはいえ、人力だけで、落ちればすぐに海の崖面に道を作ることがどれだけ大変だったかは、想像に難しくはありません。 実際に歩いてみました所、それほど危険は感じませんでしたが、落石や路肩が不安定な箇所があり、 新たにトンネルを開削してそちらに移した理由がよくわかる道でした。この道から右下を見下ろすと、少し遠いのですが、国道8号線と北陸自動車道が見えます。 すぐそばまで崖が迫り平地の少ない場所ですので、海上を高架橋で通過するという珍しい高速道路です。 自動車の道は海岸を通りますが、北陸新幹線は山の方を区間総延長19.2kmもの長大なトンネル群であっという間に通り抜けます。 人がツルハシだけで1年かけて通した道の近くの山の中を、新幹線が数十秒で通過する事を考えますと本当に隔世の感があります。

 次に親不知ピアパークに立ち寄りました。ここには翡翠ふるさと館があり、中には世界最大102トンのヒスイ原石が展示されています。 橋立ヒスイ峡から運ばれてきたものだそうでして、翡翠ふるさと館から橋立ヒスイ峡まで40kmほど距離があります。 102トンもの大きな岩を40kmどうやって運んだのでしょうか。
 8号線をひたすら進んで17:30過ぎに上越市まで到達し、そろそろ帰る時間となりました。 帰り道は北陸自動車道を使用してあっという間の3時間30分位で帰り着きました。 今回の旅のコースタイムは9:00過ぎに神岡を出発、ゆっくりと上越市まで8時間ほどかけて行き、帰りは3時間30分で往復11時間30分でした。 移動だけを考えれば早いことはよい事なのですが、寄り道をしながらゆっくりとドライブするのもたまには良いと思いました。 皆様も普段は立ち寄らない旧道や一般道路をゆっくり走ってみてはいかがでしょうか。

(参考)
 ・朝日町 ヒスイ海岸 富山県朝日町観光サイト
  https://www.asahi-tabi.com/hisuikaigan/
 ・硬玉と軟玉の違い 鉱物と隕石と地球深部の石の博物館
  http://www.istone.org/jade2.html
 ・フォッサマグナとは 糸魚川フォッサマグナミュージアム
  http://www.city.itoigawa.lg.jp/6525.htm
 ・天険親不知線 Wikipedia
  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E9%99%BA%E8%A6%AA%E4%B8%8D%E7%9F%A5%E7%B7%9A
 ・土木学会選奨土木遺産親不知旧道  公益社団法人土木学会
  http://www.jsce.or.jp/contents/isan/blanch/3_28.shtml
 ・長野~富山間の北陸新幹線の概要 新潟県上越市
  https://www.city.joetsu.niigata.jp/soshiki/kotsu/shinkansen-gaiyou2.html
 ・道の駅 親不知ピアパーク
  https://e-oyasirazu.com/

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