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新時代の物質として
幅広い産業に貢献できるMOF【第1回】
~自由に設計できて多様な機能を発揮する~

MOFは1997年に発表された、均一な微細孔と高い比表面積などを特徴とする多孔性物質です。自由に設計できることから、「分離」「貯蔵」「変換」といった様々な機能を発揮します。現在、実用化の範囲はまだ限られていますが、今後は活用の幅が広がると期待されています。
今回は、市場共創PJ推進グループ長 兼 MOF-PJリーダーの松前へのインタビューを通してMOFについて3回に渡りご紹介します。

今回のテーマである、有機金属構造体(MOF: Metal-Organic Framework、以下MOF)とも呼ばれる多孔性配位高分子(PCP: Porous Coordination Polymer、以下PCP)について、まずは基本的なことからうかがいたいと思います。どのような物質なのでしょうか。

簡単に言えば、孔が開いた多孔性物質の一つです。
多孔性物質というと、古代エジプト時代から使われてきた活性炭があります。その後、18世紀に天然のゼオライトが発見された後、人工的に作られるようになりました。
そして、1997年に京都大学の北川進先生によって発表された、無機物と有機物のハイブリッドな材料で、均一な微細孔と高い比表面積が特徴であるものが「MOF」または「PCP」と呼ばれています。金属と有機化合物が規則性を持ち、連続的に二次元構造や三次元構造を形成して、ナノレベルで制御された多孔性を有する物質の総称です。
現在、活性炭やゼオライトにはない高い比表面積や、ユニークな特性があると注目されています。
材料の構成としてはそれほど珍しくないのですが、金属イオンと有機配位子の組み合わせで、孔の大きさや性質を自由に操作できる、という材料です。
様々な作り方が可能で、例えば原料となる金属イオンを含んだ溶液と有機配位子を含んだ溶液を高温・高圧下で合成するソルボサーマル法がよく用いられていますが、溶液法のように常温・常圧下で溶液を混ぜるだけで、簡単に結合し、分子レベルでジャングルジムのような構造ができる種類のMOFもあります。

MOFにはどのような特徴があるのでしょうか。

自由に設計することができる、という点です。有機物と金属イオンを組み合わせることによって、様々な形や孔の大きさが違うMOFや機能を柔軟に設計し、作ることができます。例えば、サイズの大きなガス分子と小さなガス分子をMOFフィルターに通し、一方だけを通すという設計が容易にできるのです。
さらに、孔が空いている構造を利用し、様々な機能を発揮するという多様性があります。
その基本的な機能が「分離」です。いくつかの分子が混在する物質から、孔のサイズを調整したり、目的のものだけを優先的に吸着させたりすることによって、その分子のみを分離するのです。孔の大きさが均一とはいえない活性炭とは違い、同じ大きさの孔を作れるMOFは分離性能が高くなります。
もう一つは「貯蔵」です。孔がたくさん空いていると、そのなかに分子をたくさん吸着することができるので、特定のガスを閉じ込めたりすることができます。この「分離」と「貯蔵」が大きな基本機能だといわれています。
応用機能として、二酸化炭素をMOFのなかに通して吸着させ、触媒を組み込むことで、メタノールやエタノールにするといった「変換」も可能です。
つまり、MOFが様々なものに反応する“場所”としても機能できるということであり、より一層広い分野で活用できるというわけです。
現在では、分離や貯蔵だけではなく、「合成」「触媒」「整列」「輸送」などの様々な機能が研究、開発されていて、幅広い業界での活用が検討されています。

二酸化炭素をメタノールにできるなど、夢のある材料ですね。

そうなんです。大気中の二酸化炭素をMOFが捕まえて、その二酸化炭素と水素を反応させると違う燃料になる――といった、まだ実用化されてはいませんが、まさに夢のような研究も数多くされています。
ただ、これだけ可能性を秘めた材料ではありますが、普及が進んでいません。今はまだ大量に作ることができないとか、だからこそ価格も高くなってしまうといった理由があるためです。しかし非常に可能性のあるものですから、多方面で活用されるようになれば価格も下がり、広がりも出てくると思いますね。

現在、世界ではどのように実用化されているのでしょうか。

実用化については、まだ限定された分野に留まっています。
先行している実用例の一つは、アメリカの会社が開発した貯蔵機能を利用したボンベです。有害な半導体の特殊ガスを、MOFを詰めたボンベを利用することで、低い圧力でより多くのガスを入れて安全に運搬できるようにしたものです。
もう一つはイギリスの会社の例で、果物を運ぶとき、果物からエチレンが放出されることで傷んできますよね。それをエチレンが果物表面に付着する前に、MOFのなかに溜めていた異なるガスを優先的に果物に付着させることによって、果物が傷むのを抑え、鮮度を保つという実用例です。
日本では、タンクの内壁のコーティングを行う企業が、コーティング樹脂の一部にMOFを混ぜることで、タンクから発生する腐食性のガスをMOFが先に吸着し、タンクの錆びを防ぐという製品化を行っています。
このように、少しずつですがMOFを使った製品が市場に出つつあります。

【第2回】へ続く

【話し手】松前 和男
三井金属鉱業株式会社 事業創造本部 市場共創推進部 共創PJ推進グループ長兼MOF-PJリーダー

【インタビュー実施日】2022/12/01