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大きな可能性を秘めた接合材料・銅ペースト【第1回】
~パワーデバイスでの使用を想定し、高機能化へ寄与~

銅ペーストは従来のはんだに替わる接合材料として、パワーデバイス(パワー半導体)での活用が期待されています。
今回は事業創造本部 技術・開発グループリーダー AST事業推進ユニットの山内へのインタビューを通して銅ペーストについて3回にわたりご紹介します。

今回のテーマ「銅ペースト」は、三井金属では製品化には至っていないものの、大きな可能性を秘めている材料だとうかがっています。どのようなものなのでしょうか。

簡単に申し上げると、金属の粒子と有機溶剤を混ぜたものです。粘土よりもう少し軟らかくて、ハンドクリームとマヨネーズの間ぐらいの感触をイメージしていただくと良いかもしれません。色は、銅なのでオレンジ色です。銅ペーストを基板の上に印刷し、さらにその上に電子部品やICチップなどを載せて加熱したり圧力をかけたりすると、粒子同士および粒子と被接合部材が焼結して接合します。

まずは、使い方からご説明した方がイメージしやすいかもしれません。使用を想定しているものの一つに、パワーデバイス(パワー半導体)という電気信号や電力をコントロールするために使われる半導体があります。

パワーデバイスは何らかの基板の上で半導体がくっついている構造なのですが、その接合材料として多く使われているのがはんだです。自動車など過酷な環境で使われるものについては、鉛のはんだが使われています。鉛は熱に対してもしなやかに耐えることができることから、鉛フリー化といわれながらも、信頼性が特に求められる部分には国内外共に例外的に鉛が使われているのです。今回ご紹介する銅ペーストは、このはんだに替わって使われるようになればと考えています。

焼結が関係しているということですが、どのような技術なのでしょうか。

熱を加えることによりペースト中の有機溶媒などは揮発し、粒子同士は結合(焼結)します。この焼結現象を利用して物と物(ここでは電子部品と基板など)をつなげる技術です。焼結自体に使われる金属はさまざまで、焼結ペーストは銀を用いたものと銅を用いたものがありますが、三井金属の開発品は銅を使用しています。

焼結ペーストにおける接合プロセスには、大きく二つあって、一つがはんだと同じように基板などに塗って載せ、炉の中で熱をかけていく方法です。もう一つは加圧接合プロセスというまったく新しい工法で、例えば金型のような治具で半導体チップを押しながら熱をかけていく方法です。加圧接合プロセスは、熱と圧力を併用することで密な焼結状態を実現でき、接合の信頼性も上がります。熱伝導率も上がるため、焼結ペーストを用いた量産用の工法として立ち上がりつつあります。

次世代半導体の一つであるシリコンカーバイドは、従来のシリコン半導体よりも高い温度でも動作させることができるため、より高性能なパワーデバイスの実現に寄与します。ですが、半導体をそのような温度域で使用すると、接合材であるはんだが耐えられなくなります。高熱によって溶けるか、溶けるまでいかなくてもそれに近くなるため不安定になってしまうのです。それに対して焼結ペーストは、温度が上がっても簡単に溶けることはなく、熱に対して信頼性が期待できます

ちなみに、焼結ペーストでは銀のものが広く検討されています。金属表面の酸化は焼結現象を阻害する要因なのですが、銀は貴金属のため焼結という意味では使いやすい元素であるからです。一方で銅ペーストは、どのように酸化対策を行うのかが難しいポイントになります。銅は、保管中に自然酸化することへのケアも必要で、その分、銅ペースト開発のハードルは高かったのです。

現在、焼結ペーストは、すでに一部のデバイスで製品として使われています。ほとんどが銀で、その焼結ペーストを使ったパワーデバイスも、いわゆるフラッグシップモデルのような高性能なものが世の中に出てきています。ただ、コストを下げるために銅を使いたいというニーズが根強くあるのです。

【第2回】へ続く

【話し手】山内 真一
三井金属鉱業株式会社 事業創造本部 技術・開発グループリーダー AST事業推進ユニット

【インタビュー実施日】2023/2/21