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大きな可能性を秘めた接合材料・銅ペースト【第3回】
~地球環境問題への貢献にも期待が膨らむ~

鉛はんだを銅ペーストで置き換えることで特性面だけでなく環境面においてもメリットがあります。
パワーデバイス以外にも、再生可能エネルギーの効率向上など、さまざまな分野で環境問題の解決に貢献していきたいと考えています。

研究・開発ではどの点が難しかったでしょうか。

当初、銅ペーストの特性を満たすためにはどうすべきかおぼろげでした。そのため、プロトタイプをさまざまなお客様へご紹介し、フィードバックをいただきながら、少しずつ求められているものをクリアにしていく段階があり、その辺りは難しい部分でした。新たな材料を世に出す難しさはもちろん、そもそもどのような材料にするのか、世の中が求めることが定まっていなかったという状況でもありましたからね。
そのため、使い方としてははんだのようなイメージですが、プロセスが異なっていたり、もしくは気を付けるべきポイントが違っていたりと、実際にプロトタイプを試してもらってみて分かったこともありました。テストをしていただいたお客様の中には、接合以外の用途での活用を検討される方もいらしたようです。

銅ペーストを手がける中で難しいのはどのような点でしょうか。

酸化は焼結を阻害しますから、その対策に尽きるといえます。そもそも銅は、自然に置いておけば少なからず酸化します。一方で、もし何らかの酸化防止処理を施した場合、今度はそれが焼結阻害要因になります。ここが悩ましいところで、銅ペーストの難しさといえると思います。銅ペーストを自由自在に焼結させるには、銅の粒子をいかに使いこなすかが重要になります。その点、三井金属は粉の技術を持ち、このような課題を解決へ導くことができるので、技術選択の幅も広いと考えています。

銅ペーストには多くのメリットがあると思いますが、環境面でプラスになることもあるのでしょうか。

はんだから置き換えることによって、鉛フリー化できるのは分かりやすいメリットではないでしょうか。またパワーデバイスの特性をより引き上げることができますから、省エネや地球環境問題にも貢献できます。

鉛フリー化以外で、従来のはんだと比べた銅ペーストの優位性はどの点にあるのでしょうか。

熱伝導率が高いこともメリットの一つです。鉛を使用したはんだでは、50~60W/(m・k)であるのに対して、銅の熱伝導率の物性値は400W/(m・k)程度です。完全な塊にはならないので、焼結ペーストとしてはそこまでの数字にはなりませんが、200 W/(m・k)ぐらいになります。おおまかな比較にはなりますが、はんだに比べて数倍は良くなるといえます。

三井金属が手がける優位性として粉から手がけられる点を挙げられていましたが、一方で超えるべきハードルもあるのでしょうか。

ペーストメーカーとしては後発ですので、やはり課題があることは否めません。特に海外でのペーストメーカーとしてのネームバリューが不足していたことで、最初の頃は営業のパイプを作ったりコンタクトを取ることが難しく、展示会に出展して何とかアポイントメントを取ったりしていました。また、パワーデバイスを想定した実験や試作の経験値も不足していました。
ただ、その点は少しずつ改善してきています。後発だからこそチャレンジできることもありますし、そうしなければ目立っていけないと思いますね。そのためにも、毎年展示会に出展したり、学会で発表したりしながら、ステップアップしています。今はお客様とも関係性を構築でき始めてきていますが、繰り返しアピールして存在感を示し続けていく必要があると思っています。

将来的な目標や、理想としているイメージはありますか。

三井金属のパーパスにも関連しますが、地球環境問題に何かしらの形で貢献していきたいと考えています。今は、主にパワーデバイスを通じた分野にフォーカスしていることが多いですが、それ以外の分野でも貢献していきたいです。
例えば、電子機器基板の回路の形成には湿式の製法が用いられており廃液が発生するのですが、この回路形成に銅ペーストを利用した印刷技術を活用できれば廃液を削減でき、環境負荷を下げられるはずです。再生可能エネルギーの分野でも、効率を引き上げることができます。いずれは銅ペーストが関わる分野の幅も広がっていき、地球環境問題への貢献度も高められると思っています。

山内さんが個人的に取り組まれてみたいことや、目標とされていることはありますか。

とにかくまずは、銅ペーストを早く市場へ出したいですね。その上で、少し長いスパンの話になるかもしれませんが、銅ペーストの技術が世の中に認識され、銅ペーストなら三井金属のものがベースとなるぐらい、トップメーカーだと認知されるようになりたいですね。そして、尽力して新しく立ち上げた技術が、三井金属のコア技術の一つとして位置付けられるようになれば、エンジニア冥利に尽きます。

【話し手】山内 真一
三井金属鉱業株式会社 事業創造本部 技術・開発グループリーダー AST事業推進ユニット

【インタビュー実施日】2023/2/21