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新時代の物質として
幅広い産業に貢献できるMOF【第2回】
~きっかけは協業による“出会い”。独自開発にも着手~

三井金属のMOF事業は、コーポレートベンチャーキャピタルを活用した、スタートアップ「Atomis(アトミス)」との出会いによって始まりました。Atomisと“キャッチボール”をしながら量産化へ向けた研究・開発を進め、主要な事業に育成していこうとしています。

三井金属においては、いつ頃からMOFの開発に取り組まれたのでしょうか。

まずお話しておかなければならないのは、三井金属には、2017年に始まったコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を活用した新規事業能創出の取り組みがあります。ユニークな技術を持つ企業を探索し、協業や共同開発を行っていて、特に有望な企業には積極的な出資もして、先方の先進技術と三井金属の培ってきた強みを融合させ、大きな事業機会の創出を目指そう、という取り組みです。
そのなかで2019年、京都大学発のスタートアップであり、MOF/PCPの研究開発をしている、株式会社Atomis(以下、アトミス)に出資して、協業を進めることになりました。この投資こそが、MOFの事業を始めるきっかけであり、背景としてあります。
アトミスに出資するまで、私たちもMOFを詳しくは知りませんでした。そのため、出資するまでの過程で、MOFとはどのような材料なのかを聞きながら、三井金属として商品化や新事業に取り組むことができるのかを考えました。その結果、アトミスと一緒に事業を進めていけるのではないか、という結論に至ったのです。

そのときはどちらから呼びかけたのでしょうか。

三井金属では、CVCの取り組みでよい企業があれば出資したいという考えがありましたので、こちらからお話を聞かせていただけませんかと呼びかけたと思います。ただその際、すぐにMOFに取り組みたいとしたわけではなく、私たちが持っている粉体製造技術や電池や触媒用途においてコラボレーションできるのではないかという考えもありました。

それがMOF開発につながるきっかけは何だったのでしょうか。

アトミスは、MOFを普及させるためには安く大量に作ることが必要だと考えていて、そのための製法も開発していました。実はその製法が、私どもにとって馴染み深かったのです。
三井金属はもともと、金属粉や酸化物粉などを多く取り扱ってきましたから、その点でも非常に親和性が高いのです。出資するにあたって、「私たちが大量に作れるのではないでしょうか」とお話ししたところ、アトミスも「確かに、トンオーダーや数十トンオーダーに対応するのは自分たちの役目ではなく、それをこなせる生産パートナーが必要だ」という話になり、まさに思いが一致しました。
そして今は、どのような材料をどのように作ればよいのかを教えていただきつつ、三井金属からもアイデアを出すというキャッチボールをしながら、MOFの量産化を進めているところです。
私どもとして、MOFは現在の金属粉や機能粉に匹敵するようになっていく商品であり、新しい事業になるという思いがあります。その点がアトミスとも一致しているので、ビジネスモデルをすり合わせながら進めていきたいと考えています。

現在、MOFをどのように事業化されようとしているのでしょうか。

アトミスの生産パートナーから事業化を始めようとしています。三井金属が持つ、金属粉や機能粉を作っているプロセスに近い技術を活かしながら、高い生産性やグリーンな合成手法を中心に、量産体制の確立を目指しているところです。
また、合成技術と粉体制御技術の融合によって、品質や加工性に優れるMOFを提供していきたいとも考えていますし、成型品の提供も目指しています。というのも、お客様によっては、「MOFを粉でもらっても使えないし、テストもできないので困る」というお声をいただくことがあります。
そこで、ペレット状にしたり、膜に練り込んだりと、使いやすいように成形して提供することを考えています。ただ、この際もコラボレーションが必要で、三井金属がMOF粉体を提供しつつ、フィルム状にするのは協力会社の技術で行うといったこともあると思います。全部を自前で行うことはあまり考えていません。
事業では競争も大切ですが、より可能性を広げるための協業も重要です。私が所属する事業創造本部の市場共創推進部は、外部の力をうまく取り入れて事業機会を創出していこうという部署でもあるので、その方針に則って進めています。

MOFについては、アトミスから依頼されることだけではなく、コラボレーションしながら独自の開発も行っていくというわけなのですね。

そうですね。私たちのネットワークやチャネルを利用して、MOFを様々な用途で活用していきたいと考えています。例えば、主要製品である銅箔の表面にMOFを合成することも可能です。実際に、同様の研究をしている研究者もいらっしゃいますから、そのような組み合わせを考え、新しい機能が実現できれば、より一層MOFを世の中へ広めていくことができます。

【第3回】へ続く

【話し手】松前 和男
三井金属鉱業株式会社 事業創造本部 市場共創推進部 共創PJ推進グループ長兼MOF-PJリーダー

【インタビュー実施日】2022/12/01