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新時代の物質として
幅広い産業に貢献できるMOF【第3回】
~環境問題へ寄与することも目標の一つ~

MOFは、二酸化炭素の吸着・分離・変換が可能であることから、環境問題への貢献も期待されています。さらには、幅広い産業での利用も想定されていて、三井金属では協業パートナーとの間で様々な可能性を探っています。将来的には、社会に役立つ材料として世の中へ広めていくことを目指しています。

実際に、MOFがより広く実用化、商品化された場合、どのようなことが実現可能になると思われますか。

三井金属では電池材料も扱っていて、そのなかにMOFを組み込み、次世代の電池の材料とすることで、電池をより高品質にできないかと考えています。もし実現すれば、自動車やスマートフォンも様々に進歩する可能性があると思っています。
さらに、温室効果ガスの排出をゼロに近づけたり、カーボンニュートラルに向けて二酸化炭素を吸着・分離・変換したりできることで、市場に大きく貢献できるのではないか、とも考えています。とにかく環境問題の解決に期待したいですし、そういった領域に貢献できる材料でなければ、ある意味で面白くないとも思っています。

方向性を考えながら、事業や開発の方向性を絞り込んでいるという段階なのでしょうか。

実際に事業を立ち上げるとなれば、方向性をある程度絞り込むことも必要ですが、まだそこまで絞りたくはないという段階ですね。まだまだ様々な可能性があるので、それらを捨てたくない気持ちが強いです。
まずはMOFを多くの人に知ってもらい、そこから私たちと同じ方向を向いていけるお客様と出会っていきたいですね。そして、一緒に開発するのか、あるいは協業パートナーになっていただくのか、などの可能性を探りたいと思っています。
そのうえでこの先、MOFは必ず様々な用途で活用されるようになっていると思いますので、そのときに、三井金属がMOFを扱う企業のレギュラーメンバーに入っていたいですね。

2030年、2040年、さらには2050年になったとき、どのような使われ方をイメージしていますか。

やはり、環境問題に貢献できる製品に活用されることが、最も幸せなのではないかと思いますね。例えば水素です。これから水素社会になるとき、MOFを使って水素を作ることは難しくとも、不純物が多く含まれている水素ガスをきれいな水素にすることは可能で、そういった貢献は十分できるはずです。そのような動きもより一層広がっていくと思いますね。

一般の方にも、MOFによる“驚き”や“感動”が伝わると、社会的な認知や、普及にもつながりそうですね。

MOFは、素材でもあるので難しい面はあると思いますが、「知らないけど入っていた」というようなところが、驚きにつながるのではないでしょうか。すでに市場で活用されている三井金属の製品の多くも、実は自分たちや社会の身近なところにある、あった、入っていた、ということがあります。それと同じで、「あったんだ」との発見をしていただいたとき、感動になると思いますね。

皆さん自身が、MOFの開発に関わるなかで、幸せなこと、感動するようなことはどのようなことですか。

まず、MOFそのものですね。京大の北川先生の講演によると、MOFは偶然からできたそうで、最初は「失敗したな」程度の認識だったとうかがいました。しかしよく見ると、無数の孔が空いていて、それをうまく利用できるのではないかというところから始まったと。ですので、このMOFは、一見役に立たないと思われるものが実は非常に大切な役割を果たすことを言う、“無用の用”である、と仰っていました。面白い言い方だと思いましたし、この材料を表現するのにぴったりだと感動しましたね。
新しい素材を世に出すには多くの時間がかかります。でも、アトミスの皆さんもそうですが、そこへ果敢にチャレンジしていくスタートアップがあって、それを私たちのような少し大きめの企業が、一緒に手を組むスタイルになり始めています。
国もスタートアップの支援を後押しするようになってきていますが、アメリカの方がより進んでいます。日本でも、新しいことにチャレンジし、それを支えるパートナーがいて、結果として世の中に新しい製品が出ていく形になっていってほしいですね。そして、そこに暮らす皆さんに便利さを感じていただくのが、私たちの喜びです。

アトミスと協業を始めた頃のことも、印象深いですね。今でこそ、社内でもMOFに関わる人や関心を持っている人は多いですし、新入社員のなかにも学生時代にMOFを研究していました、という人が出てきています。しかし、アトミスと取り組み始めた当初、メンバーは3人いたかどうか、という程度でした。その頃のアトミスは京都の施設に実験室を借りて活動していましたが、三井金属も同じ施設に1室借りて…というところから始まったのです。そこで一緒に活動しながらMOFのことを教わり、まず小さな装置で実験した後、大きな装置が必要になると三井金属がそれらを揃え、その場でスケールアップしていくこともありました。そんなことが2年ぐらい続きましたね。
その頃のことは、膝をつき合わせ、酒を酌み交わしながら共に進めていったような思い出になっています。アトミスから、「まとまったオーダーが入ったから頼む」と依頼されたこともありますし、私自身、実験室でバケツを使って溶液をジャブジャブと入れながら作ったりしたものです。

最先端の技術ではありますが、開発にはどこか人間くさいところもありますね。

そうなんです、泥くさいといいますか。作っている最中にバケツをひっくり返したこともありますよ。有機溶媒を使っているので、部屋中が臭くなって大変でした。
とにかく、企業規模など関係なく、同じ目線で始められたからこそ面白かったですね。ただ、お互い親しき仲にも礼儀ありでいきましょうと、契約や品質の検査をはじめとする業務についてはしっかりと取り組んでいました。

三井金属とMOFが、アトミスとの協業で“出会った”こともそうですが、今後、外部とのコラボレーションによって、イノベーションが生み出される可能性が高いわけですね。

そう思いますね。ある素材を掛け合わせることで、1+1が2ではなく、20や30になることがあります。最近はどこの会社もオープンイノベーション化が進んでいますが、自前主義ではなく、様々な組織と協力し合っていくことが、今後は大切になると思います。その際には、利益をどちらかが独り占めするのではなく、お互いにメリットのあることが大事です。また、そうしていくことが、MOFもそうですが、せっかく生み出された技術を埋もれさせず、社会に広めていくことにもつながると思います。

【話し手】松前 和男
三井金属鉱業株式会社 事業創造本部 市場共創推進部 共創PJ推進グループ長兼MOF-PJリーダー

【インタビュー実施日】2022/12/01