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カーボンニュートラルに貢献するCO₂吸着材【第2回】
~複数人の研究開発経験が新規材料の開発につながる~

カーボンニュートラルの実現が急務とされるなか、CO₂分離回収技術に新たな可能性をもたらす多孔質材料が注目されています。三井金属では、複数の研究者たちの経験や技術を結集し、従来の課題を打破するコンパクトなCO₂吸着材を開発。中小企業でも導入しやすい装置の実現に向けた取り組みを進めています。

カーボンニュートラル関連技術として、CO₂を分離回収できる多孔質の材料を、三井金属が開発するに至った経緯をうかがえますか。

私たちの研究所は新規事業の創出が一つの目的で、新規材料の開発や新規用途探索を行っています。そのなかで、触媒や吸着材のコア材料として多孔質材料に着目し、新規材料の開発を行ってきました。多孔質材料というのは小さな細孔が非常に多く空いている材料のことで、比表面積の高さが特長です。代表例として、ゼオライトやメソポーラスシリカ、MOF(Metal-Organic Framework) などが挙げられます。
そのなかでも連続マクロ孔のある本材料に着目したのは、ガス拡散性の高さが非常に魅力的だったからです。CO₂分離回収のほかに、触媒の支持体としての利用も視野に開発を推進していましたが、CO₂分離回収材料としてお客様からの引き合いが強く、カーボンニュートラル貢献材料の一つとしてテーマ化しました。
ただ、本材料は合成時の微妙な条件の変化によって構造が変わってしまう繊細な物質で、大量合成が難しいものです。しかし、克服すればこの材料のアプリケーションをもっと増せるので、大量合成を見据えた合成法の改良も行いながら他テーマにも展開しています。

この材料を使うことで、CO₂回収装置が小型化されることは前回うかがいましたが、これまで装置の導入が難しかった規模の工場でも導入が可能になるのでしょうか。

その点では、中小規模分散型での導入を目指しています。大規模な設備では化学吸収法などの実績のある既存技術が導入されていることが多いと思います。規模の小さな施設では、CO₂濃度が低く、また、装置を設置するための土地があるのか、という現実的なハードルもあり、ニーズも異なります。そこで私たちは装置をコンパクトにすることで、小規模なスペースで設備を増強するイメージで設置してもらえるようにしたいと考えています。将来的にはCO₂を分離回収するだけでなく、回収したCO₂をオンサイトで燃料などの有価物に変換するなどの取り組みにまでつなげていきたいと考えています。

開発にあたって、どのような経緯で多孔質材料がCO₂分離回収につなげられることにたどり着いたのでしょうか。

研究開発を進める技術グループでは、「マテリアルの性質・機能をトコトン理解すること」をとても大事にしています。そのため、効率的なCO₂分離回収を実現する材料(マテリアル)として、必要な機能は何なのかグループのメンバーと議論してきました。その過程で、様々な多孔質材料を、マクロ孔のほかにさらに小さなナノスケールの細孔をもつ多孔質材料に応用できれば、性能が良い材料を生み出せるのではないかという着想に至りました。
すぐに試作に取り掛かり、実際に試験をしてみたら、本当に効率的な結果が得られました。全社スローガンである「マテリアルの知恵を活かす」をまさに実践したことが、今回のケースにつながったのではないかと感じています。

多くの方々の経験が、この技術に生かされているのですね。本材料を使ったCO₂分野への対応は、他の事業などに比べて早かったのでしょうか。

これまでも多孔質材料をコア技術として開発していましたが、CO₂分野への応用としては、比較的早く立ち上げられたと思います。カーボンニュートラル分野は国の政策の影響も大きく、タイミングを逸すると参入機会を逃してしまうリスクがあることから、よりスピード感をもって対応していく必要があると考えています。今後は、自社で完結できるビジネスではないことからも、協業パートナーと連携して早期実現を目指したいと思っています。

【第3回】へ続く

【話し手】
古川 孝裕
三井金属鉱業株式会社 事業創造本部 FPM事業推進ユニット ユニット長
関山 雅人
三井金属鉱業株式会社 事業創造本部 FPM事業推進ユニット 営業・マーケティンググループ長
大迫 隆男
三井金属鉱業株式会社 事業創造本部 総合研究所 技術グループ テクニカルマネージャー
倉持 達司
三井金属鉱業(株) 事業創造本部 市場共創推進部 兼 事業創造本部 総合研究所 技術グループ エンジニア

【インタビュー実施日】
2024/12/2